Accepted paper:

「境界線のポリティクス」の彼方へ-戦争叙述における複数的視点の可能性について-

Authors:

Makoto Takagi (Sagami Women's University)
Daisuke Higuchi (Kobe University)

Paper short abstract:

日本の戦争叙述は、感情移入の可能な人物とそれが不可能な他者を分割して扱うことを通して、テクストの持つ偏った視点をあたかも中立的なものとして読者に印象づける機能を持っている。本報告では前近代及び近現代の戦争叙述・歴史叙述を具体的に検討することを通して、「境界線のポリティクス」の諸相を考察し、あわせてその負の影響を相対化しうる歴史叙述のスタイルについて検討する。

Paper long abstract:

日本の戦争叙述(文学)の死者の語りにおいては、感情移入の可能な人物の死を記憶し、記念することと、感情移入の不可能な他者の死を記述しないことで忘却することとがコインの裏表の関係になっている。両者を分割する境界線はテクスト成立時の国家的な枠組みや社会文化のあり方に依存しており、たとえば当該人物が和歌や音楽等の古典文化を共有する人物であるかどうかが指標になることも多い。しかし、多くの読者もまたその文化的規範を内面化しているが故に、テクストの背景をなす偏った視点をあたかもニュートラルなものとして受け取ってしまう傾向が生じることが多い。 本報告前半では六国史に始まり、『平家物語』『太平記』等の戦争文学のカノンに至る諸テクストにおける上記境界線の引かれ方について検討し、それが後世の「日本」イメージに与えた影響について考察する。 また、近代日本の戦争叙述や歴史叙述もまた、境界線の生み出す影響から自由ではなく、そのことが隣接諸国との歴史認識をめぐる抗争や国民感情の対立を生み出していると考えられる。本報告後半では国内で多くの愛読者を持つ歴史小説テクストとその享受史を検討することを通して、前近代の状況との差異と共通性について考察する。そしてそれを踏まえて「境界線のポリティクス」の影響を相対化しうるような、複数的視点を持つ叙述スタイルの可能性について検討したい。

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"Hantologie" and Narrative of Japanese War Literature